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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)3593号 判決

原告

石井千絵

被告

栗原操

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金三二五八万五四五二円及びこれに対する昭和六二年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金八六二二万四七八九円及びこれに対する昭和六二年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告ら運転の二台の車両が接触事故を起こした後、そのうちの一台が歩道上に暴走して原告に衝突した事案で、原告が被告らに対して、自賠法三条、民法七〇九条に基づいて損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実等(証拠により認定した場合は、証拠をかつこ書きで記載する。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六二年四月一三日午後四時一五分ころ

(二) 場所 横浜市金沢区朝比奈町一一〇番地先

(三) 加害車甲 普通乗用自動車(横浜五三そ四九〇六)

同運転者 被告内田

(四) 加害車乙 普通乗用自動車(横浜五二せ五一六三)

同運転者 被告栗原

(五) 被害者 原告

(六) 事故態様 路外へ出るため右横断を開始した加害車甲を追い越そうとした加害車乙が加害車甲に接触した後、歩道上に乗り上げ、折りから歩道上でバス待ちしていた原告に衝突した。

(七) 結果 原告は、左下腿開放性骨折、右下腿骨折の傷害を負つた。

2  責任原因

本件事故について、被告栗原は、自賠法三条の運行供用者責任を負い、被告内田は、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

3  治療経過

原告は、次のとおり入通院し、その間、数回の手術を受けた。

(一) 金沢文庫病院(甲二の1、原告本人)

昭和六二年四月一三日から同年六月三日まで入院(五二日)

(二) 東京慈恵会医科大学附属病院(甲二の2、三、一三、原告本人)

(1) 同日から同六三年一月二二日まで入院(初日除き二三三日)

(2) 昭和六二年五月一六日から平成元年一二月八日まで通院(実日数一〇日。ただし、原告が受診していない日を含む。)

(三) 国立横浜病院(甲一〇の5・6、原告本人)

昭和六三年五月二一日から同年六月四日まで通院(実日数三日)

4  後遺障害(甲三、一四、原告本人、弁論の全趣旨)

原告は、平成元年一二月八日、症状固定と診断されたところ、後遺障害の内容は次のとおりである。

(一) 左足関節の用を廃した(背屈、底屈が自動、他動ともに〇度)。

(二) 右腓骨に偽関節を残した。

(三) 骨盤骨に著しい変形を残す。

(四) 左下肢を二センチメートル短縮した。

(五) 左足部に知覚障害を残す。

(六) 左下腿部、背部、臀部に醜状痕を残す。

そして、自賠責保険(自動車保険料率算定会)において、右(一)につき自賠法施行令別表八級七号、(二)につき八級九号、(三)につき一二級五号、(四)につき一三級九号に該当し、併合して六級と認定された。

5  既払金(損害の填補) 二〇六二万三一二四円

原告は、右金員のうち昭和六二年一二月一四日受領の四〇万円、同六三年三月二八日受領の二〇万円及び平成元年五月二六日受領の三〇万円の合計金九〇万円は、見舞金であるから損害額から控除されるべきでないと主張するが、その受領の時期、金額等に照らし、単なる見舞金と認めることはできず、右九〇万円についても損害の填補にあてるべきである。

二  争点は、原告の損害額であり、被告らは、主として、後遺障害による逸失利益につき労働能力喪失率が六級相当の六七パーセントより少ないとして争うほか、ハリ・マツサージ等費用、入院全期間の付添看護費、家族の交通費、車両購入費用等の必要性、相当性等について争う。

第三争点に対する判断

一  損害額

1  治療費 六八七万一七七四円

既払金として争いのない六八五万六二三四円のほかに、証拠(甲一〇の1~7、原告本人)によれば、未払金として一万五五四〇円が認められるから、右金額となる。

2  はり、マツサージ等費用 〇円

原告は、一一万一一二〇円(又は一三万三二八〇円)を請求し、証拠(甲一一の1~8、原告本人)によれば、原告が昭和六三年六月八日からビルト鍼灸治療院ではり、マツサージ等の施術を受けたことが認められるが、右は医師の指示によるものではなく、原告とその母の判断によるものである(施術の内容、効果を認定する証拠もない。)から、その必要性、相当性が認められない。また、原告は、平成三年三月から戸塚接骨院に通院していると供述するが、これは症状固定後のものであるので、損害として認められない。

3  付添看護費 九二万四〇〇〇円

証拠(甲一二、一三、原告本人)によれば、原告の入院期間中、原告の母が毎日のように付添看護をしたこと、慈恵医大病院は完全看護とされていたが、原告の病状に照らすと病院側の看護だけでは必ずしも十分ではなかつたことが認められるから、金沢文庫病院入院の五二日と、慈恵医大病院入院日数の半分に当たる一一六日の合計一六八日間について付添看護の必要性、相当性を認める。そして、近親者の入院付添費は、一日当たり通院交通費(甲一三によれば、一日当たり金沢文庫病院一四八〇円、慈恵医大病院二四二〇円)を含めて五五〇〇円と認めるのが相当であるから、右金額となる(請求額二八五日間分一二八万二五〇〇円)。

4  入院雑費 三四万二〇〇〇円

入院雑費は、一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であるから、二八五日間で右金額となる。

5  交通費 四万八三一〇円

原告は、家族の通院等交通費として、甲一三により八四万〇九二五円を請求するが、本件事故と相当因果関係のある損害として認められる交通費は、原則として原告の入通院に関して要した交通費に限られ(なお、原告の母の付添看護に要した交通費は、前記のとおり付添看護費に含まれる。既払に係る交通費も、主として原告の母の右交通費である。)、それ以外の原告の家族の日常の見舞に係る交通費は、右損害としては認められない。

右損害として認められる交通費は、証拠(甲一二、一三)によれば、昭和六二年四月一三日の母のタクシー代四〇〇〇円、同年六月三日の転院に係るタクシー代二万〇一一〇円、慈恵医大病院通院費用一日当たり二四二〇円、一〇日分(前記第二の一3(二)(2)。本人以外の通院分を含む。)で二万四二〇〇円が認められるから、四万八三一〇円となる。他にも、証拠がないので認定できない国立横浜病院通院費用等の損害があることがうかがわれるが、これらは入通院慰謝料等で考慮すれば足りる。

6  装具、松葉杖代 七万〇五七〇円

右金額は、争いがない。

7  改造費用 〇円

原告は、七万四三二〇円を請求し、証拠(甲五の89、七の1~6・8、原告本人)によれば、原告の父が原告のために風呂場、階段の簡易な改修をし、ベツドを購入するなどしたことが認められるが、右には日常生活用品に属するものも含まれており、必ずしも本件事故と相当因果関係のある損害とは認め難いものもあり、その金額に照らしても、後遺障害慰謝料等で考慮すれば足りる。

8  車両購入費用 〇円

原告は、四〇万円を請求するが、右は通常の中古の乗用車を購入したにすぎず(甲七の7、原告本人)、本件事故による損害と認めることはできない。

9  留年による在籍料、教科書代 二二万三六八〇円

証拠(甲九の1・2、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時、四年制大学二年在学中であつたところ、本件事故により受傷したため、一年間留年を余儀なくされ、その間の在籍料二一万五〇〇〇円及び教科書代八六八〇円の損害を被つたことが認められる。

10  アルバイト収入(逸失利益) 四八万円

原告は、一年当たり五六万円で三年間分一六八万円を請求し、アルバイトを大学一年の冬休みから始め本件事故にあうまで三か月位続けていた、月平均四、五万円の収入があつたと供述するが、原告の供述によると授業のないときは土、日曜日を含めてほとんどアルバイトをしていたことになるが、大学生として不自然であり、このようなアルバイトを卒業まで三年間も続けることは考え難いから、右請求どおり認めることはできず、四八万円の限度で認める。

11  留年による逸失利益 二四二万七五〇〇円

原告は、一年留年したことにより、一年卒業、就職が遅れたので、一年分の得べかりし給与相当分の損害を被つたものと認められるところ、右金額は、賃金センサス昭和六三年第一巻第一表、産業計・企業規模計・女子労働者・新大卒・二〇歳から二四歳までの年齢階級別年間平均給与額二四二万七五〇〇円をもつて相当とする(請求額二五三万〇〇五〇円)。

12  後遺障害による逸失利益 二四八二万〇七四二円

証拠(原告本人)によれば、原告(昭和四二年一二月一〇日生)は、大学を平成三年三月に卒業し、同年四月から会社に事務職として勤務し、初任給で月額約一五万円の給与を得ていることが認められる。

原告の後遺障害等級六級相当の労働能力喪失率は、労働省労働基準局長通牒の労働能力喪失率表によれば、六七パーセントとされているところ、原告の右現状はそれほどの労働能力喪失となつていないが、他方において、原告の現状は原告自身の努力の結果であると認めうること、就職当初の現時点で必ずしも後遺障害の程度に応じた影響が顕現しているとはいえず、将来の昇給、昇任に影響が及び、又は転職に際してハンデイキヤツプを負うなどの蓋然性を否定できないことなどに照らすと、原告の現状を前提として労働能力喪失率を認定するのは相当でない。そして、原告の後遺障害の内容等の以上認定の事実を考慮すると、原告の逸失利益の算定に当たつては労働能力喪失率を五〇パーセントとするのが相当である。

そこで、原告の逸失利益を算定するに、原告は、本件事故にあわなければ、平成三年四月(二三歳)から六七歳に達するまでの間、前記賃金センサス女子労働者・新大卒・全年齢平均年間給与額三四一万六二〇〇円を得ることができたと推認されるので、この額を基礎として、ライプニツツ方式により中間利息を控除して四四年間の逸失利益の本件事故時(一九歳)の現価を求めると、次の計算式のとおり二四八二万〇七四二円となる(請求額五四〇六万四六五四円)。

3,416,200×0.5×(18.0771-3.5459)=24,820,742

13  入通院慰謝料 二六〇万円

以上認定の諸般の事情を考慮すると、右金額が相当である(請求額二六八万円)。

14  後遺障害慰謝料 一二〇〇万円

以上認定の諸般の事情を考慮すると、右金額が相当である(請求額三〇〇〇万円)。

15  合計金額 五〇八〇万八五七六円

二  損害の填補

右合計金額から原告が損害の填補として受領した二〇六二万三一二四円を控除すると、被告らが原告に対して賠償すべき損害額は、三〇一八万五四五二円となる。

三  弁護士費用 二四〇万円

本件事故と相当因果関係のある損害額は、右金額が相当である(請求額五〇〇万円)。

(裁判官 杉山正己)

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